一度身に付けたことは、無自覚のうちに、何となくでも出来てしまう。その仕組みがあるからこそ、私たちは日々を円滑に暮らすことができます。でも、好ましくないこと(たとえばストレスをためるようなこと)も、一度身に付けると、それを無自覚のうちに繰り返してしまいます。

そこで、前話のように、まずは自分が何をしているかに気づいていないことに、気づくことが大切です。心も体も無自覚のうちにたくさん動きまわっています。そのことに気づこうとしてみてください。

心の動き。体の動き。それは外部からの刺激に反応して、無自覚のうちに自動的に起こります。

たとえば、寒くて上着を着たとします。本人は寒いから自分の意志で上着を着たと思っているかもしれません。でも実際には、これまでの人生で身に付けたパターン(寒くなったら上着を着るというパターン)を、無自覚のうちに繰り返しているだけです。

つまり、「寒さ」という刺激に対する反応パターンとして、上着を着たいという思いが沸き起こり、それに対する反応パターンとして、上着を着るという行動をしたということです。

このとき、マインドフルネスな状態であれば、上着を着たいという衝動が心の中にわいてきたことに気づくでしょう。その衝動に対する反応として、上着を着るという行動を起こそうとしている肉体の動きに気づくでしょう。

そのようなことに気づいている意識があると、身に付けたパターンの繰り返し以外の選択肢が見えてきます。上の例であれば、上着を着ようとしているのは、ただ心身が反応しようとしているだけで、それにとらわれる必要がないことが分かります。

実際のところ、寒さという刺激があったときにどうするかは、たくさんの選択肢があります。たとえば、もっと暖かいところへ行く。走って体を温める。呼吸法を試してみる。体がどう反応しているかを観察する。何もせずにただ寒さを受け入れる。などなど。

マインドフルネスな状態であれば、身に付けたパターンの繰り返しではなく、様々な可能性の中から、意図的に人生を選択する道が拓けてくるのです。それは寒さにどう対応するか、という小さなことだけではありません。人生をどう生きるか、という大きなことにも言えることなのです。

ところで、マインドフルネスな状態であっても、基本的に心や体は身に付けた反応パターンを繰り返したがるものです。そのパターンが好ましければ問題ないけれど、ものによってはそのような反応パターンは解消したい場合もあるでしょう。(たとえば、つい愚痴を言ってしまうとか、ついつい食べ過ぎてしまうとか)

パターンを解消するには、大きく分けて二つのアプローチがあります。一つ目は、既存の反応パターンに対して、別の反応パターンを上書きする方法。二つ目は、既存の反応パターンを根本的に消去する方法です。

一つ目の方法は、言わば普通のやり方。頑張って、努力して、改めて、新しいやり方を身に付ける。つまり、新しいパターンを身に付けることで、それまでのパターンを隠してしまうやり方。自分を変えたいとき、普通は誰もがこのやり方をやっています。

たとえば、ついついネガティブに考えてしまう自分を変えようと思って、いつもポジティブな言葉を口にするようにする。すると、ネガティブ思考が表に出ないようになっていきます。

たとえば、子供の頃に身に付けてしまった変な箸の持ち方を改めるために、綺麗な箸の持ち方を練習する。新しい持ち方を身に付けると、以前の持ち方は出番がなくなり、顔を出さなくなります。

新しいやり方をしっかり身に付けると、既存のパターンは表に出ないようになり、その後は新しいパターンがメインに働くようになる。このやり方は、脳の発達の様子にも見て取れます。今でも脳の中には、魚類、爬虫類、下等な哺乳類の頃の痕跡が残っています。私たちの脳も機能を上積み追加していくことで、進化してきたのです。

つまり、新たなパターンを追加していくという方法は、生命が誕生してから動物がずっとやってきたやり方。進化の歴史の延長線上を、今まで通り同じように歩むやり方です。(だからこそ、誰もが普通はこのやり方をやっているのです)

それに対して、二つ目の方法は、意識に目覚めた人間にしかできない新しいやり方。上書きするのではなく、本質的に既存の反応パターンを消去する方法。実はそれこそがヨガの本質であり、それはマインドフルネスにも通じるメソッドです。

次回は、この「既存の反応パターンを消去する方法」について、詳しく説明する予定です。