自分が何をしているかに気づくこと。それはヨガをする上で一番大事なことです。どんなことをしているときでも、今この瞬間、心はどう感じているのか、身体はどう反応しているのか。それに気づいていようとする意識的な取り組み。それがヨガの本質です。

そのような意識の使い方は「マインドフルネス」が広く知れ渡るようになって、だいぶ理解されるようになってきました。今この瞬間の感覚に意識を向けることは、ヨガに限らず、普通に健康に幸せに生きていくうえでも、とっても役に立つのです。

実際のところ、私たちは自分が何をしているかに気づいていないときがたくさんあります。しかも多くの人は、そのことにさえ気づいてないものです。

気づいてないことに気づくために、ぜひ知っておいてほしいことがあります。それは、私たちの心や体は「一度身に付けたことは、無自覚で出来る」という仕組みを持っているということ。一旦やり方を身に付けると、意識的に取り組まなくても、なんとなくで出来てしまうのです。

それは肉体の動きはもちろん、感情の反応や、思考のパターン、口からでる言葉など。心身のすべての活動に当てはまります。実際のところ、私たちが日々行なっていることの大半は、すでに身に付けたことを繰り返しているだけ。ほとんどのことが、なんとなくで出来ることばかりなのです。

たとえば、歩くときに、筋肉の動きを認識しながら歩いていますか? 人と話すときに、その言葉の一語一句を意識的に吟味してしゃべっていますか? ものを考えるときに、今までと同じような思考パターンでものを考えていることに気づいていますか?

一度身に付けたことは、無自覚で出来る。それはとてもありがたいことで、その仕組みがあるからこそ、私たちは日々を円滑に暮らすことが出来るのです。でもそれは同時に、無自覚のうちにしていることがたくさんあるということ。自分が何をしているかに気づいていないことが、たくさんあるということです。

その中でも、ぜひとも気づいてほしいのが「ストレスを増やすようなものの考え方を無自覚のうちにしていること」や「ストレスをためるような行為を無自覚のうちにしていること」です。

どちらもポイントは「無自覚のうちに」です。ストレスをためるようなことでも、一度そのやり方を身に付けると、それを無自覚のうちに繰り返してしまいます。そして、ほとんどの人は、それを毎日毎日繰り返していて、無自覚のうちにストレスをためているのです。

一度やり方を身に付けたら、同じような状況では、同じようなことをする。実はそれは、生命の本質的な性質です。環境に大きな変化が起こったりして、今までのやり方が通用しなくなったら、新しいやり方を身に付けるときもある。でも余程のことがない限り、基本はこれまでの繰り返し。それが生命の性質であり、人間以外の生き物は、すべてそのような生き方をしています。

人間も動物なので基本は同じ。でも人間はそれだけじゃない。人間には、自分のしていることに気づき、それを改める力がある。それは人間にだけ与えられた特別な能力。その能力を使わなかったら、人間として生まれた甲斐がない。ヨガをするということ(=自分が何をしているかに気づくこと)は、その能力を意識的に活用して、自分自身を高めていこうとする試みなのです。

そのスタートとして、まずは自分が何をしているかに気づいていないことに、気づいてください。そのことに気づいたとき、意識的な人生への道が少しずつ拓けていくのだと思います。