前話では、意識的にマインドセットに向き合うことについて説明しました。マインドセットは心のあり方を表す言葉ですが、意識的に関わっていきたいという点においては、心も体もまったく同じです。心でも体でも、自分の持っている反応パターンに気づき、必要に応じて、それを更新していく。それが意識的に生きるということです。

心も体も、いろいろな状況に応じたパターンを蓄積しています。パターンが身に付いていれば、特に意識を向けなくても、必要に応じて自動的に反応して働いてくれます。

たとえば、歩くこと。幼いころ、初めて歩き始めたころは、一歩一歩が意識的な行動。でも大人になったら、ほとんど無自覚のうちに歩くことができます。ときにはスマホを見ながら歩いてる人がいるくらいです。

意識しなくても動いてくれる心や体の働き(言わば自動運転モード)は、とても便利なものです。でも、そればかりだと、無意識・無自覚で生きている状態。「意識の力」という人間ならではの能力を放棄した生き方です。意識の力を活用するのがヨガの本質。ヨガをするのであれば、自分がどれくらい意識的に生きているのか、ときどき自問自答してみるといいでしょう。

実際のところ、意識的に生きることを心掛けている人以外は、ほとんどの人が、ほとんどの時間を、無意識・無自覚で過ごしています。「初めて体験することをしているとき」や、「自分のしていることをちゃんと意識しようという意図を持って行動しているとき」以外は、ほとんど無意識・無自覚のうちに、心身が自動的に働いているものです。

無意識・無自覚で過ごしていても、日常の行いの大半は、心身が自動運転モードで処理してくれる。だから、多くの場合、無意識・無自覚であることにすら、気が付いてないのが普通です。

どれくらい無意識・無自覚で過ごしているか。その度合いを知るひとつの目安は、時間経過の感覚。無意識・無自覚のまま、自動運転モードが中心の日々を過ごしていると、気が付いたら時間が経っていた、ということになります。

たとえば、年末になると「今年ももう終わり、一年なんてあっという間だね」というような会話をする方がいますが、それは無意識・無自覚で過ごしていた時間が長かったから。意識的に過ごしている時間が少ないと、日々があっという間に過ぎていきます。(電車に乗ったら眠ってしまって、寝ている間に目的地について、なんだかあっという間だった、というのと同じです)

一般に、年長者ほど時間経過が早く感じる傾向が強まります。年を重ねるにしたがって、初めて体験することが減っていくので、無意識・無自覚で過ごしている時間が増えていくからです。

でも、年を重ねたら必ずそうなるという訳ではありません。年長者になっても、新しい体験にどん欲にチャレンジし続けるようにしたり、あるいは、自分のしていることをちゃんと意識しようという意図を持って日々を過ごしていれば、無意識・無自覚で過ごしている時間が増えることはありません。

年長者ほど、月日の経過を早く感じるようになる。それは、年をとるにしたがって、体が固くなることと似ています。普通は年をとるにしたがって、体は固くなります。でも絶対にそうなるとは限りません。年長者でも柔軟な人はいくらでもいます。もちろん、そのような人は毎日のようにストレッチをしていたりするものです。

意識的に生きることもそれと同じ。普通は年をとるにしたがって、「無意識・無自覚で過ごす度合い」は増えていきます。でも、ちゃんと意識することで、年を重ねても、自動運転モードでばかりではなく、意識的な生き方をすることができます。

当たり前のことですが、何かをするときには、その課題を明確にすることはとても大切です。課題を知らないまま、課題をクリアすることはあり得ません。年を重ねても柔軟な方は、「体を柔軟に保つ」という課題があり、そのために必要なことを日々実践しています。同じように、ヨガをするのであれば、「意識的に生きる」という課題をしっかりと自覚してください。

ヨガをしているのに、「月日の経つのが年々早くなるねぇ」みたいな会話をしているとしたら、それはヨガの課題が分かっていないから。ヨガをしているつもりで、全然違うことをしているのかもしれません。「意識の力」という人間ならではの能力を活かしていくのがヨガの本質。どんなスタイルのヨガであれ、ヨガをするのであれば、意識の力を活かすことをいつも心掛けて取り組むようにしてください。