楽すぎてもダメ、頑張りすぎてもダメ。ちょうどいいところを見つけるのが大切。前話では、そんな中道について書きました。中道が良いというのは、あえて言うまでもないほど、当たり前のこと。でも、その道を常に実践するのは、とても難しいことです。
中道を行く感覚は、ハサミやカッターを使わずに、手で紙を切るときの感覚に似ています。
紙に折り目をつけて、それに沿って手で紙を切るとき、切るスピードが早すぎたり、遅すぎたり、力加減が悪かったりすると、うまく切れなくて、紙が破けてしまいます。でも、適度な力加減で、適度なスピードで切っていくと、折り目に沿って、気持ち良く綺麗に紙が切れます。
中道とはそんな感じ。注意深く、でも慎重すぎることなく。大胆に、でも繊細に。その丁度いいところに当たったとき、それはとてもとても気持ちの良いものです。
そんな中道の実践で、まず大切なことは観察です。そこで何が起こっているのか。自分は何をしているのか。それを観察する視点。別の言い方をすれば、いま自分が何をしているのかを、ちゃんと自覚することが大切です。
自分が何をしているのかを自覚する。そんなの当たり前と思うかもしれませんが、実際のところ、私たちは自分が何をしているかを自覚していないのが普通の状態です。さらに言えば、自分がしていることを自覚していないことにすら、まったく気がついていないのが普通です。(自分がしていることを自覚しているときは「自覚している認識」があるものです)
たとえば、ついつい頑張りすぎてしまう人は、いつも無自覚のうちに頑張ってしまいがち。あるいは、ついつい楽をしようとする人は、無自覚のうちに楽な方向へ逃げようとするものです。それは生き方の「クセ」のようなもの。クセというものは、自分ではなかなか気がつかないけれど、無自覚のうちに、いつもいつも行っているものです。
自分が何をしているのかに気づくこと。これ、実はめちゃくちゃ大きなテーマで、仏教的な視点であれば「生まれ変わりを繰り返していることに気づく」というようなことにまで至ります。
でもそこまで言わずとも、ヨガをする方であれば、ぜひ日常的に意識して欲しいことがあります。それは、心の中でのつぶやきやおしゃべりに気づくこと。それは、セルフトーク、マインドトーク、インナーワードなどと言われるもので、人は誰でも毎日数万回ものおしゃべりを心の中でしているものです。
たとえば、暑いな、寒いな、頑張んなきゃ、ありがたいなぁ、もうちょっと、ご飯どうしよう、会いたいなー、私ってかわいい、もう寝よう、これステキ、やりたくないなぁ、幸せだなー、疲れたなぁ、、、etc.
心の中でのセルフトーク、それはただのおしゃべりではありません。それがその人の人生を創り上げています。たとえば、いつも頑張りすぎる人は、心の中で「頑張んなきゃっ」てつぶやいてるだろうし、ついつい楽な方向へ逃げようとする人は、なにかあるとすぐに「嫌だなぁ、やりたくないなぁ」ってつぶやいていることでしょう。
いつもネガティブなセルフトークをしている人は、ネガティブな人生になるし、いつも明るいセルフトークをしている人は、明るい人生になる。セルフトークの結果が今の人生そのもの、といっても過言ではありません。
セルフトークは、誰もがいつも行なっています。でも多くの場合、それに気がついてません。自覚が無くても、脳はいつも動いていて、勝手にセルフトークを繰り返しています。ヨガをするならば、そのことに気づく意識を持ってください。
ヨガというのは、もともとは自己探求。自分自身を見つめ、本来の自分に気づき、自分の本質を取り戻そうとする試み。だからヨガをする上で、自分が何をしているかを自覚する意識は必須であり、それがなかったら、まるで話にならないのです。
ただの健康体操をしたいだけなら、別に構いません。でもヨガをしたいなら、いま自分が何をしているのかをちゃんと自覚すること。それはヨガの基本中の基本。ヨガマットの上でアーサナをするだけがヨガではありません。セルフトークに気づく意識も、ヨガの実践のひとつと思って取り組んでみてください。