ヨガを深めていくと言うことは、難しいポーズができるようになることではなく、繊細なものを感じる力を高めていくということです。感じる力を高めていくと、神経の働きが活性化して、心身を自由に扱える範囲が広がり、身も心も軽く動きやすくなります。

でも、感じる力がアップするのは、良いことばかりではありません。世の中には、鈍感でいた方が楽なこともあります。例えば、人の気持ちを繊細に感じすぎる人は、まわりに何かと気を使いすぎて、疲れてしまいがちです。また、今の世の中には、多すぎる花粉や排ガス、様々な農薬や添加物など、体に良くなさそうなものがたくさんあります。それらを必要以上に感じすぎる体になると、アレルギーの症状がでたりして、暮らしがつらくなってしまいます。

ヨガをして心身を浄化していくと、いろいろなものを感じる力が高まります。でもそれに伴い、今の世の中の良くない面を強く感じるようになってしまい、生きづらくなってしまう人もいます。そこで必要なのが「受け入れる力」です。

喜ばしいものはもちろん、あまり喜ばしいと思えないものも、ちゃんと気がついている。ちゃんと感じている。でも、それらを否定することなく、排除することなく、ありのままを受け入れていく。感じる力を高めることと、受け入れる力を高めることは、同時に行うべきことで、それらの両立がとても大切なのです。

受け入れる力を高めるには、どうしたらいいのでしょう?

その答えは、受け入れる力を高めていこうと思うこと。「自分は受け入れる力を高めていく存在である」と自分自身を定めること。当たり前すぎて、逆に分かりにくいかもしれません。でも、これが一番本質的で、重要なポイント。人は「自分がどういう存在でいるかを選択する力」を持っています。その力を意図的に使うことが大切なのです。

人は不快な物事があると、それに対して反射的に、排除するか、逃げるか、我慢して耐えるかのいずれかをします。基本的に、受け入れるという選択肢はありません。(「受け入れる」と「我慢して耐える」を混同しないように注意してください)

たとえば、花粉症になると、花粉を排除するか、花粉から逃げることばかり考えがち。排除できなくて症状がでてきたら、我慢して耐えようとする。それが普通でしょう。花粉を受け入れるという選択肢は、意識的にそれを選択しない限り、出てこないものなのです。

受け入れる力をつけるには、「自分は受け入れる力を高めていく存在である」と決意することが大切。それによって、受け入れるという選択肢が生まれるのです。そしてその上で、もう一つ大切なポイントがあります。

何かを受け入れようとするときは、その対象をいきなり受け入れようとするのではなく、まずは「受け入れられない自分」を許し受け入れること。自分を受け入れることなしに、相手を受け入れられるようには、決してなり得ないのです。

例えば、許しがたい相手がいたとき、いきなり相手を許し受けようとすると、それは我慢して耐えるモードになってしまいます。そうではなく、「相手を許せない自分」を許すのです。許せない自分を許し受け入れることが出来たとき、相手を許せるようになるのです。

体の固さも同じです。ヨガの初心者は、自分の体の固さをネガティブにとらえる人が多いけど、それは体の固さを否定して、受け入れていない状態です。その状態のままだと、なかなか体は柔軟になりません。

体の固い自分を否定している自分に気づき、そんな自分を受け入れたときに、固い自分を許せるようになります。そして、体の固い自分を受け入れながらヨガをしていると、だんだんと体も心も柔らかくなっていくのです。

受け入れる力を高めるということは、別の言い方をすれば、自らの度量を広げると言ってもいいでしょう。心身の浄化に効果的なヨガは、一歩間違うと、ピュアな理想世界を良しとして、汚れた現実世界に幻滅する方向に行きかねません。そうではなく、純粋になっていく自分を良しとしつつ、同時に清濁併せ呑めるように、度量を広げていく。ヨガを実践するときには、その両方の視点を忘れないようにしてください。